【起業事例】役職定年を機に退職、チーム育成のコンサルタントとして独立

  • 2019年12月11日
  • 2022年8月22日
  • インタビュー

芳賀 哲 プロフィール 1981年 ソニー株式会社へ入社。半導体の商品開発エンジニアとして、市場変化の中で新規事業の立ち上げから事業縮小までを経験。2013年 次の価値観への変化を感じ、新たなチャレンジを決意し退社。同年、56歳のときに個の自立とチーム育成に焦点を当てた会社を設立。独立後は、起業・経営支援サービス「ドリームゲート」の認定アドバイザーを2年間務めるほか、事業のステージアップを目指す経営者を社外経営顧問として支援。現在は、高齢化・人口減少という大きな環境変化の中で、企業のマネジメント変革への支援として研修プログラムなどを提供。

56歳のとき、役職定年のタイミングで退職して起業

Q:起業をしたのは何歳のときですか? 起業のきっかけもお聞かせください。

56歳のときに起業をして、現在7年目になります(2019年時点)。当時は再雇用の制度がなかったので、50歳になる頃から定年後のことを考えるようになりました。 しばらくのあいだは、はっきりとした答えが出せないまま時間が過ぎていきました。しかし、55歳になった年に、一定の年齢で役職を降りる「役職定年」の制度が導入され、辞めるならいまがチャンスだと思いました。 それまで、定年後に不安を抱きつつも会社を辞めなかった理由のひとつとして、役職に就いていたことが挙げられます。役職があるのに途中で辞めてしまうと、「一緒に仕事をしている人に迷惑をかけることになる」という思いがあったので、役職定年のタイミングで退職するのはベストな選択だと考えました。 定年後の進路として転職ではなく起業を選んだのは、定年前に転職しても60歳を迎えたときに同じ状況になってしまうと思ったからです。それなら、50代のうちにこれまでと違うことに挑戦してみたいという気持ちになり、起業を決めました。

固定費をかけず、自分の経験を商品にできる仕事としてコンサルタントを選択

Q:事業内容はどのように決めましたか?

まず、リスクを小さくするために、店舗を持ったり仕入れをしたり、費用のかかることは極力しない前提で事業内容を考えました。 設備を整えるための費用など初期投資をしないのであれば、自分自身を商品として打ち出すことになります。となると、これまでの自分の経験を生かしたコンサルタントの仕事が適している。では、どの分野のコンサルタントがいいだろうか…と思案する中で、「自分と同じように起業したいと考えている50代に向けて、コンサルティングをやってみよう」となりました。 まずは経験を積むことが必要だと思い、経済産業省の後援で始まった「ドリームゲート」という起業支援サービスの認定アドバイザーとして活動を始め、起業したい人に向けたセミナーも主催しました

知人からのアドバイスをきっかけに、コンサルタントから研修講師に転向

Q:コンサル業から研修講師中心に転換されたとのことですが、そのきっかけを教えてください。

起業2年目に入る頃に、ある方から「アドバイザーやセミナーもいいけれど、せっかく大きな会社で苦労してマネジメントをしてきた経験があるのだから、それを生かしてマネジメント研修をやったらどう?」というアドバイスをいただきました。 確かにその通りだなと思い、アドバイザーと並行して社内研修の講師としての活動も開始したところ好評をいただき、3年目からは講師に専念することにしました。現在はアドバイザーとしての活動はしておらず、社内研修と講演をメインに仕事をしています。 研修内容で要望が多いのは、昇進時の管理職研修です。また、その変形として「部下育成のためのコミュニケーション」や「チーム作り」など、テーマを絞った研修を実施することもあります。講演では、50代の方を対象に、これからのキャリアをどう考えていくかについて話をすることが多いですね。

会社以外の人脈づくりのためにTwitterを活用、出会った人との勉強会も経験

Q:起業にあたり、どんな準備をされましたか?

起業する1年前くらいから準備を始めました。まったく経験のないことなので、まずは本やネットで必要な情報を調べたり、「今までと違う人」に会ったりしました。 当時、私が重視していたのは人との出会いです。それまでは、社内の付き合いがほとんどだったので、会社以外の人脈を広げることが必要だと思いTwitterを始めました。そこで知り合った人と交流したり直接会ったりするなかで、小さな勉強会の主催も経験しました。 勉強会は、少人数で集まって「自分のやりたいことを実現するには何をすればよいか?」を考える内容です。参加費などを取るわけではなく、自分自身の勉強も兼ねたものでしたが、この経験で「人に教えるとはどういうことなのか」といった感覚をつかむことができました。

自分にとっては、収入より「60代になったときに人の役に立てているか」が重要

Q:不安を感じことはありますか?

起業について調べれば調べるほど失敗の確率が高いこともわかってきて、不安も当然ありましたが、自分でやりたいと思って始めたことなので、楽しんでいる部分もあります。 起業すると収入が不安定にはなりますが、今後のキャリアを考えるなかで、お金のことよりも「60代になったときに何をすればよいか」「自分は何かで人の役に立っていられるのだろうか」ということのほうが、自分にとって重要だと思うようになりました。 もしうまくいかなかったら「別の道を選べばいい」と考えていたので、お金のことは気にはなるけれど、最大の心配事ではありませんでした。

人と人とのつながりを大切にすることで、自分に必要な人やチャンスに巡り会えることを実感

Q:事業を軌道に乗せるために大切なことは何ですか?

自分でゼロから何かを始めるには、人との出会いが大切だと思っています。 というのも、起業して仕事をいただく中で、キャリア開発でよく言われる「理論」は本当なのだと、身をもって知ることができたからです。「事業とキャリア理論、どういうこと?」と疑問に思われたでしょう?順に説明していきます。 まずひとつめが、「計画的偶発性理論」です。これは、「偶発的なことが起きないと物事はスタートしない。なので、その偶発が起こるための行動を計画的にしましょう」という理論なのですが、私の今の仕事が、まさにこの理論を体現するような出来事からスタートしています。 起業するにあたってシェアオフィスを借りたのですが、そこに入って1カ月目に知り合った人にドリームゲートを紹介してもらいました。その人に出会わなければドリームゲートのことも知らなかったので、この出会いはとても大きなものでした。シェアオフィスをどこにするかを決めるときに熟慮したことが「計画的」、そして、そこでの出会いとドリームゲートの存在を教えてもらったことが「偶発性」です。 2つ目が「六次の隔たり」という理論です。これは「世界中の人は、5人の人を介すると6人目で間接的につながる」というものですが、そこから転じてキャリアやビジネスの場でも使われるようになっています。 「いきなり知らない場所に行って出会った人が自分を直接変える人ではないけれど、いくつかのステップを経ることで、自分を変えるきっかけになる人と出会える」という意味です。私は、人と人とのつながりを介して、自分が必要としている人に会い、仕事の機会を得ることができました。こういった経験から、人とのご縁はかけがえのないものだと思うようになりました。 起業を考えている人から相談を受けていていると、すぐに結果を求めたがる人が多いのですが、行動してすぐに結果を出すことはできません。人との出会いを丁寧に紡いでいくことで、チャンスに巡り合えるということをお伝えしたいと思います。

これまでの看板を捨て、ゼロからスタートする気持ちが大切

Q:これから起業する人にメッセージをお願いします。

私は大きな組織にいましたが、個人で仕事をするということは、組織とは考え方がまったく異なると感じています。組織の場合は目標が明確に設定されるので、それを達成するための計画を立てて具体的に行動することが求められます。 一方で、自分で新しいことを始めるときは、目標を立てても想定したとおりに物事が進むことはめったにありません。具体的にならない目標に向かって、あきらめずに前に進んでいかなければならないので、組織の中で求められる考え方やメンタリティ(心の在り方)とは違った心構えが必要だと思います。 組織の中での価値観やこれまでの看板を捨て、「ゼロからスタートする気持ちを持てるかどうか」「いったんプライドを捨ててスタートすることができるかどうか」が要になってきます。 また、起業アドバイザー時代に感じたのは、現状の環境がイヤで起業する人はうまくいかないということです。起業をすると、困難なことが次々と起こります。そのときに、「どうしてもこれがやりたい!」という気持ちを持っていないと続けることができません。 「成功した人はあきらめなかった人」とよく言いますが、本当にその通りだと思います。3年、5年苦労してある程度のところまでくれば、その先は自分のもの…という部分もあるので、もう一度こつこつと積み上げて自分の世界をつくる気持ちでチャレンジすることが大切だと思います。