中村 正巳 プロフィール
1979年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、同年4月、山一證券株式会社入社。約12年間、人事・教育部門に従事した後、個人営業部門に従事。丸ビル支店営業課長、世田谷支店営業次長、海老名支店長を歴任。山一證券自主廃業後、東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランド入社。人事部、関連会社出向常務取締役ほか部長等を歴任。さまざまな新規施設、新規企業を立ち上げから設立、運営、経営まで統括する責任者の立場を得て、組織風土改革、コーポレート・ブランディング等の組織開発のノウハウを修得。2017年1月、同社退職。同年2月、コンサルティング事務所・オフィス中村設立。
定年後の生活を見据え、起業に役立つ情報を50代の頃から積極的に収集
起業を意識して、どのような活動をしてきましたか?
私は大学卒業後、山一證券に入社したのですが、同社で人事・教育部門、主に採用業務を通じて、業務の基本となる対人関係のスキルを身につけました。
山一證券が自主廃業してからは、東京ディズニーランドなどのテーマパークを運営するオリエンタルランドに入社して、コールセンターやサービス施設、障がい者を雇用する特例子会社など、さまざまな新規施設や企業を設立・運営してきたほか、人事労務、商品開発など幅広い領域の仕事にも携わってきました。
61歳の時、組織開発コンサルタントとして独立し、オフィス中村を設立したのですが、50代の頃から定年後の生活を見据え、起業を考えていました。
50代も半ばとなってからは、起業セミナーに出席したり、経験者の話を聞いたりと、積極的に情報を収集してきました。しかし、最初から「この分野で起業する!」と決めていたわけではなく、行動しながら手探りで次の道を探しているような状態でした。
セミナーや読書で知識をインプットした後は、いったんその内容を自分の中に落とし込み、今後に役立つ情報だけをピックアップして、自分なりの知見を少しずつカスタマイズしていきました。
自分の強みが体系的に提示できるようになるまで、棚卸しを行う
どのように自分の強みを見いだしていったのでしょうか?
人事や組織開発が専門のコンサルタントはほかにもいますが、得意分野は人それぞれですし、士業の方々も含め、きっとライバルは大勢いるはず。その中から自分を選んでもらうには、オリジナルのコンテンツや魅力がなければいけないと考えたのです。特にレベルの高いクライアントからは、質の高いアウトプットが要求されることは、容易に想像できました。
私はこれまでの経験を生かし、業種を問わず、総合的な経営コンサルティングに対応することができるのですが、その中でも特に自信を持っているのは、従業員のモチベーションアップやチームビルディングなど、組織の活性化に関する生産性向上プログラムの提供・支援です。
多くの従業員は、それぞれ悩みやストレスを抱えながら仕事をしているのですが、従業員がワクワクしながら仕事に取り組めているかどうかは、企業の成長を左右する重要な課題です。
私は、企業の経営理念、効率性や合理性に加え、働く人の感情領域に配慮してその強みを生かし、従業員満足度と顧客満足度が同時に高まる組織開発力に自信を持っています。しかし、そんな自分の強みが体系的に提示できるようになるまで、すでに活躍している先輩起業家にもノウハウを教わりながら、棚卸しをきっちり行いました。
強みと適性をベースに、オリジナルのコンテンツを構築
自分の強みを確立するにあたって、どんなことを考えましたか?
理系の技術者や、医師、弁護士の資格を持つ人なら、その技術や資格がそのまま起業の強みとなります。しかし経営コンサルタントは、たとえ中小企業診断士の資格を持つ人であっても、資格ばかりをアピールしたところで仕事はやってきません。その一方で「マネジメントの経験があります」「部長をやっていました」というキャリアばかりを強調しても、特徴にはなりません。
そのあたりの難しさを感じながら、起業にあたり、自分だけのキラーコンテンツを確立することに注力してきた結果、「経営戦略と人財開発を一体化した組織開発」を主にして、「Logic(論理的追求)×Magic(心理・感情的追求)×OS(ビジョン)」という企業の成功方程式を構築し、現在アピールしています。
ただ、勉強したり、スキルを身につけることも大事なのですが、仕事においてにもっと大事なのは、自分本来の性格なのです。例えば、「海が好き」とか「おいしいものに目がない」というような好き嫌いや感情が、意外と仕事の選択につながっていますし、つながっている人ほど仕事で成功しやすいことがわかっています。
私はもともと、人と力を合わせて何かを成し遂げることが好きですし、人に何かを教えるのも好きです。そして幸運にも、会社で人事・研修系のポストに就くことができたおかげで、企業・組織・チームに関する分野を強みにして、コンサルティングの仕事に結び付けることができました。
本気で取り組めることを、余裕のある範囲で試してみる
Q:50歳以降で起業を考える際の注意点を、キャリアの専門家としての立場から教えてください
嫌な仕事をお金のために我慢してやってしまうと、その仕事で成功するのは難しくなるでしょう。特に50歳以降は、この先心身ともに元気な状態で働ける時間が限られていますから、起業を考えるなら「心がワクワクすること」「本気で取り組めること」「自分の性格に合っていること」を優先して仕事を選んでほしい。ただし、イチかバチかで老後の資金を投入するのは大変危険なので、まずはお金に余裕のある範囲で小さく試し、足場を固めてから起業に踏み切ってください。
例えば、業界の組織や協会に所属していると、大いに勉強になるし、貴重な情報も手に入ってきます。しかし、あまりいろいろなところに顔を出していては、会費など費用もかさんでくるので、懐が厳しくなってきます。
私は会社員時代、仕事に役立つセミナーや研修を受講し、そこで得た知識や人脈は今も役に立っているのですが、現在在職中で、会社の支援で勉強できるチャンスがある人は、積極的に活用してみてはいかがでしょう。
また、セミナーや会合で知り合いが増えると、何かの折に、「そういえば〇〇さんは、この分野に興味を持っていたな」と思い出してくれ、勉強会に招待してくれたり、活動を応援してくれることもあります。
副業やボランティアを通じ会社の外で経験を積むことが大事
活動や人脈の幅を広げるためには、どんな方法が有効ですか?
会社の外に出て、いろいろな人と出会い、うまくアンテナを張り、興味のあることに手を挙げておく。すると、思わぬところからチャンスがやってきます。そのためにも、普段からスマートな人間関係を築いておくことはとても大切です。
会社の外でチャンスをつかむには、副業もおすすめです。本業以外の分野でもお金と人脈を形成することができれば、起業にも役立ちますし、本業のパフォーマンスも上がってきます。副業禁止の会社に勤めている方は、将来の起業に役立ちそうな分野で、ボランティアをしてみるのもいいでしょう。
私は会社員時代、休日には無料で就職・転職に関するカウンセリングや講演を引き受けていました。その経験が起業に生かされ、今も役立っています。ただこれも、もともと好きなことだからできたのであって、義務感だけでやっていたなら、「休日がつぶされてもったいない」としか思えなかったでしょう。
相性の合うクライアントと一緒に成長していきたい
起業後の課題とこれからの方向性を教えてください
「どのような方法で自分の存在を知ってもらうのか?」という点については、不安がありました。仕事柄、守秘義務があるので、クライアントの名前や相談内容を明かすことはできませんし、営業や集客の方法については、まだまだ模索中です。
現在、コンサルティングのほかにも、戦略シナリオ作成や大学の授業のサポートなども行っていますし、プライベートでも引っ越しや孫の誕生などがあり、ついそちらにエネルギーを使ってしまって……。そんなに働かなくても食べていけるという安心感から、つい営業活動を後回しにしている部分もあるのかもしれません。
しかし、もう少しクライアントを増やしたいという気持ちは強く持っています。私は、コンサルタントとクライアントのマッチングは、結婚のようなものだと考えています。相性の合うパートナーに出会い、自分を求めてくれる相手にエネルギーを注ぎ、共に成長して前へ進んでいきたい。どうすれば、自分の力がもっと世の中に役立てるのかを考えながら、これからもチャレンジを続けていこうと思っています。
誰かに必要とされ、社会に貢献し、収入を得る喜び
起業を考えている人たちにメッセージをお願いします
50代や60代の起業は、一度仕事をやり遂げた人が行うことが前提ですから、若い人が起業する時のギラギラした野心や覚悟とは、違う事情や気持ちを持つ人も多いでしょう。正直、60歳を過ぎると体力は衰えますし、時間・お金・体力の投資配分をうまく考えないと、起業しても仕事は長続きしません。
これからもバリバリ働きたいのか、それとも自由な時間にマイペースで活動したいのかなど、退職前から助走期間を持って、考えながら行動して、55歳くらい、遅くても60歳までには、自分の道を決めるといいでしょう。65歳で定年を迎える人も今後は増えるかと思いますが、その年から起業を考えるのではちょっと遅いかもしれません。
退職後も世の中に必要とされ、誰かの役に立つ仕事で収入を得る人生には、大きな喜びがあると感じています。そして家族も、夫や父親が元気で働いている姿を見ると、安心するのではないでしょうか。起業した仲間とは、お互いアドバイスをしたりもらったりして、そこから新たなビジネスチャンスも生まれ、さらにネットワークが広がっています。
これからも、ビジネスに心理学の知見を生かしたコンサルティングを通して企業や社会に貢献し、クライアントや仕事仲間に「中村さんに出会えて良かった!」と思われるような人間関係を作っていきたいですね。仕事のほかに、本を出版するという夢も持っているので、こちらも実現に向けて取り組みます。