【起業事例】66歳で出版、執筆を機にコンサルタントとして再出発。会社員時代の講演・セミナー経験が資産に

林原 昭 プロフィール 1950年大阪生まれ。1973年慶應義塾大学工学部計測工学科卒業後、日産自動車入社。製造現場の生産性向上および生産管理の実務を通して、業務改革・改善に取組み、現場の大切さを知る。 1990年千代田化工建設に移り、自動車工場建設プロジェクトを遂行。2000年以降、自動車業界中心に品質保証業務を通して、事故等を未然に防ぐ活動を実践。 これまでの製造ビジネスを通して、日本・世界30か国以上で改善業務を実践し、コスト削減や品質改善で多くの実績を残す。2017年8月に著書「なぜあなたはいつもトラブル処理に追われるのか(合同フォレスト社)」を刊行。同10月に未然防止研究所を設立し、講演、セミナー、企業研修に取り組む。

退職後に出版した著書の読者から「話を聞かせてほしい」とメールをもらったことが起業のきっかけに

起業を考えたのは何歳のときでですか?きっかけはなんでしょう?

私が最後の勤務先を退社したのは2016年6月で66歳のときです。そのとき、漠然と起業を考えていました。退社したのは会社の合併という大仕事に一区切りがつき、年齢も年齢だったので「そろそろ…」という感じでした。 その頃は「本を出したい」という目標を持っていたので、これで執筆に専念できるとも思いました。 そもそもなぜ、ふつうの会社員だった私が出版を決意したかといえば、2016年1月に軽井沢で起きたスキーバス転落事故がきっかけです。13名もの若い命が失われたことを報道で知り衝撃を受けました。リスクに気づいて、対策を講じていれば防げたはずの事故、救えたはずの命です。自動車部品はじめ製造現場の品質管理部門が長くて、スケジュールや予算、クレーム、何より事故を未然に防ぐことに力を注いできた私には、人ごとと思えませんでした。 私の経験を広く伝えれば、こういった悲惨な事故を少しでも減らせるかもしれない。それで本を書くと決めたんです。 著者養成スクールに通ったおかげで出版社ともつながることができ、2017年8月に初めての本「なぜあなたはいつもトラブル処理に追われるのか」を出しました。 起業は、その本を読んだ読者の方から相談を受けたのがきっかけです。出版から2カ月ほどたった頃に、「うちの会社に来て未然防止について聞かせてほしい」とメールをいただいて。山形の自動車部品工場だったんですが、社内の問題点をいろいろ聞かせていただいた上で、経営者や管理職の方に向けて講演を行いました。ここから徐々に講演、セミナー、コンサルティングなどを依頼されるようになりました。

執筆作業や講演のための資料作り、現場で行ってきたプレゼンが起業の礎に

「未然防止研究所」を立ち上げたのはいつですか? 起業する前にはどのような準備をされましたか?

「未然防止」に関する問い合わせをいただくようになって、コンサルティング業務をする上で、やはり屋号が必要だなと思い「未然防止研究所」を名乗るようにしました。 正確にいつかと言われれば、ちょっと難しいですが2017年の秋ごろということになるでしょうか。立ち上げから今まで、個人事業主として活動しています。 今振り返ってみると、本を出す過程そのものが準備になっていたと思います。自分の経験や考えを体系化し、言葉で伝える作業ですから。 執筆し始めた頃と、退職の準備をしていた時期が重なるんですよ。退職時に社員の前で講演をするよう上司から頼まれていましたから、そのための資料作りや準備も役立ちました。 出版する頃から起業を意識したのでホームページを立ち上げたり、ウェブマーケティング会社から話を聞いたり、ウェブ関係の準備にはお金も時間もかけました。 あとは、やはり会社員時代の経験が財産になっています。 40年あまりのサラリーマン生活の中で、私は10回以上転職しています。自分でも数えるのがちょっと嫌になるくらいです(笑)。勤め先は外資系が多くて、フランスに3年、ドイツに2年、ほか中国・タイ・オーストラリアなど、30カ国以上で仕事をしました。世界中の現場でプレゼン(プレゼンテーション)をしてきたので、講演やセミナーを依頼されてもすぐに対応することができたのだと思います。

企業のトラブルを減らし、強い会社・安心して働ける環境をつくることが私の仕事

現在はトラブル・事故ゼロ社会の実現を目指す未然防止コンサルタントとして活動されていますが、その活動・事業内容についてお聞かせください。

「未然防止」は製造の現場、品質管理業務に欠かせない考え方です。 企業なんかで何か事故が起こると「再発防止に努めます」というけれど、それでは不十分なんです。 「再発防止」は、過去に起きた同じことが二度と起こらないようにすること。 「未然防止」は、将来起こるかもしれないリスクに気づいて対策することです。 この二つはつながっているけど違います。だから再発防止だけを一生懸命やっても、事故は減らないんです。 トラブルが実際に起きてしまったとき、最初にすべき第一ステップは「緊急対応」。トラブルを隠さず、事実を正しく把握し、初動を間違えないことです。 第二ステップが「再発防止」。根本原因を追究し、再発防止策を実行・検証し、第三ステップ「未然防止」につなげます。過去の事例をもとに将来的なリスクに気づき、未然防止策を実行・検証していく。ここまでやって初めて、トラブルを減らすことができます。 事故やトラブルが多いと、本来の業務に時間が使えなかったり、残業が減らない。トラブル処理ばかり続くと、社員のモチベーションも保てなくなる。それでは、会社の生産性が落ちてしまいます。 ですから私の仕事は「未然防止」をテーマにした講演、セミナー、企業のコンサルティングなどを通じて企業のトラブルを減らし、強い会社・安心して働ける環境をつくることです。 講演はエージェントを通じて依頼がくることもありますが、企業研修では事前にその会社が抱える問題をヒアリングして、解決策も含めてお話しします。コンサルティングになると数カ月~1年ほどの時間をかけて、社内で課題解決ができるチーム作りを支援します

自分の事業を広く伝えるためにもウェブに関する知識は大切

現在の課題、今後の対策と展望を教えてください。

2017年に起業し、18年はおかげさまで20回以上の講演の機会をいただきました。 しかし「未然防止」が必要な企業にきちんと情報が行きわたるような、集客の仕組みづくりがまだまだ弱いなと思います。この対処法として、ウェブサイトのリニューアルを予定しています。 起業に関しては、50代、60代であってもウェブの知識の習得は避けて通れないと思います。私は起業当初、ウェブについての知識がなく、ウェブマーケティングの書籍を読んだり、専門家の意見を聞くなどしてきました。専門家に依頼すればある程度のお金はかかりますが、起業するならその辺りの投資は必要だと思います。 今後の目標としては、未然防止の同志を集めたいというのが1つ。未然防止塾みたいなものを開設できればと考えています。 野望としては、「未然防止」がマスコミで取り上げられたり、流行語大賞にノミネートされる! 「未然防止」が社会に広く浸透したら、そうなるはずです。 私は“トラブル・事故ゼロ社会”を掲げて活動していますが、社会を変えるのは、1人の力ではできません。「未然防止」という言葉の認知度が高まり、みんなの意識が変わって初めて実現に近づくと思っています。

仕事の棚卸しを文字に書き出し、他の人に見てもらい意見をもらうことで自分では気づいていない強みを知る

起業を目指す方にアドバイスはありますか?

65歳を過ぎての起業は、ハードルを高くしないほうがいいんじゃないでしょうか。 「年商○○円」とか「顧客〇人獲得」といった目標は40代、50代ならいいですが、60代の起業においては挫折の原因になりかねない。働き盛りの頃のように、背伸びした目標を持ってガンガン進むというわけにいかないと思います。 でもね、60代ならではの強みもある。私も含めてみなさん40年も仕事をしてきたわけで、その人なりの知見・経験を持っているはずです。それをしまいこんだまま終わらせてしまうのはもったいないので、次の世代の人に伝えてほしいですね。結果としてそれが仕事になれば、それでいいじゃないですか。 そのためには、よく言われることですけどやはり“仕事の棚卸し”が必要だと思います。自分の仕事を振り返って、何をやってきたのか、何を失敗して何が成功したのか。できれば売り上げを〇%上げたとか、定量的にマトリックスに書き出していく。私の場合は本にまとめましたが、頭の中だけじゃダメで、文字にしないと。書いたものを自分で読むことでフィードバックがあります。 もう1つ大切なのが“他者目線”を入れること。書き出した“仕事の棚卸し表”を友人でも元同僚でも、とにかく自分以外の人に見せて意見をもらうといいんじゃないでしょうか。 私は転職のたびに職務経歴書を書いては見られて、さんざん良いとか悪いとか言われてきましたけど(笑)。自分では気づかなかった強みや弱みを発見できるのは、起業にあたっては大切なことだと思います。 自分の持っているシーズ(種=強み)と社会が求めるニーズがマッチングすれば仕事になります。そのため、アンテナを高くして社会のニーズをくみ取る努力も必要だと思います。 あとは起業して自分で仕事をするようになると、時間の使い方を自分でデザインしなくてはいけない。1日のリズムを作ることが大切なのでスポーツでも音楽でもなんでもいいので、趣味を持つといいと思います。 私の趣味はゴルフとテニスなんですが、クライアントとの約束がなければ、朝一番にゴルフのレッスンに行くようにしています。ゴルフで体を動かすと、頭と体が仕事モードになっていくんですよ。 その気になればいつまででも仕事ができてしまう環境なので、逆にダラダラ続けすぎないように意識しています。