AI時代、50代の経験は最強の武器になる。「暗黙知」を価値に変えるAI活用術【濱田金男さんインタビュー②】

濱田金男さんインタビュー①では、40年以上の現場経験を積み重ねてきた濱田金男さんに、50代からの起業で必要な「専門性」と「経営する力」について伺いました。

後編では、現在力を入れている生成AIの活用についてお聞きします。

「AIは仕事を奪うものではなく、経験を持つ人ほど力を引き出せるツールです。」

そう語る濱田さんは、品質管理の現場で培ってきた熟練者の”暗黙知”をAIによって言語化し、組織の知識として残す取り組みを進めています。

AI時代だからこそ、人間にしか生み出せない価値とは何か。その答えを伺いました。

生成AIは「答えを出す道具」ではなく、経験を引き出すパートナー

ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及し、多くの企業では業務効率化を目的とした活用が進んでいます。

一方で、濱田さんが可能性を感じたのは「長年、製造業で感じてきた課題を解決できるかもしれない」という直感でした。

生成AIを単なる効率化ツールではなく、熟練者の経験や暗黙知を未来へつなぐパートナーとして活用する。 その発想が、現在の取り組みの原点になっています。

Q:現在は生成AIを活用した情報発信や企業支援にも力を入れているとのことですが、AIに興味を持たれたきっかけを教えてください。

私にとってAIの登場は、1980年代に半導体やマイコンが普及した時と同じくらい、大きな技術革新でした。

「これは仕事に活かせる技術だ」と直感したんです。

その背景には、長年品質管理に携わる中で感じてきた課題がありました。

製造現場では、トラブルが起きると対策書を作成しますが、その内容を見ると、原因や考え方が十分に整理されていないケースも少なくありません。 現場では熟練者が経験や勘をもとに問題を解決しています。

しかし、その知識は本人の中にあるだけで、組織の資産にはなっていないんです。 だから同じような問題が繰り返されてしまう。

それなら、熟練者が持つ経験や考え方をAIで整理し、誰もが活用できる知識として残せないだろうか

そう考えたことが、AIを本格的に活用し始めたきっかけです。

Q:生成AIを活用するようになって、ご自身の仕事や考え方にはどのような変化がありましたか。

最初は「生成AIから答えをもらう」という感覚でしたが、今はそうではありません。大切なのは、自分が生成AIへどんな情報や経験、気づきを渡すかなんです。

私は長年現場で仕事をしてきたので「以前も似たことがあった」「何となく違和感がある」といった感覚を持つことがあります。

そうした言葉になっていない気づきを、まず生成AIへ投げかけるんです。 すると生成AIは、それを論理的に整理し、言語化してくれます。

さらに、その回答に対して質問を重ねながら対話を続けることで、自分の考えも少しずつ深まっていきます。

私にとって生成AIは、単なる検索ツールではありません。 相談相手であり、人の考えを整理し、より良い判断へ導いてくれるパートナーであり、ときには秘書やプロジェクトマネージャーのような存在になっています。

Q:生成AIを仕事で活用する際に、特に意識していることはありますか。

生成AIの回答を、そのまま正解だと思わないことです。

生成AIには「ハルシネーション」と呼ばれる現象があり、もっともらしく見えても誤った情報を返すことがあります。

ですから「少し違うな」と感じたら、私は別の生成AIにも同じ質問をします。

現在は複数の生成AIを使い分けていますが、それぞれ得意分野や考え方に違いがあります。 回答を比較しながら、自分の経験や知識と照らし合わせて判断するようにしています。

つまり、最後に判断するのはAIではなく、人だということを忘れてはいけないと思っています。

生成AIの価値を決めるのは、人間の「気づく力」

現場で培った知識と経験を、セミナーを通じて次世代の技術者へ伝えている

生成AIの性能がどれだけ進化しても、人間にしか生み出せないものがあります。

濱田さんが最も重要だと考えているのは、現場で培われる「気づき」です。

Q:AIが急速に進化する中で、人間にしか生み出せない価値とは何だと思われますか。

一番大切なのは、ちょっとした違和感や「もしかしたら、こうかもしれない」というひらめきのような「気づき」だと思います。

そうした気づきは、長年積み重ねてきた経験の中から生まれるものです。

生成AIは膨大な知識を持っていますが、現場で培われた経験や、その経験から生まれる感覚までは持っていません。

だからこそ、人が経験の中で得た気づきをAIとの対話に持ち込むことに意味があります。

生成AIは、その気づきを整理し、体系化し、言葉にしてくれる存在なんです。 以前、競馬予想AIについて相談を受けたことがありました。

「AIで予想しているけれど、なかなか当たらない」というお話だったのですが、私は「AIへ何を入力するかが大切なのではありませんか」とお伝えしました。

過去のデータや新聞の予想だけでなく、その日の馬の状態や天候、パドックで感じた違和感など、経験がある人だからこそ気づける情報があります。

そうした“人間の気づき”をAIへ伝えることで、AIは初めて本来の力を発揮できるのです。

これは製造現場でも同じです。 「不良を減らしたい」とだけ生成AIに聞けば、返ってくるのは一般的な答えでしょう。

しかし「以前も似た現象があった」「今回はいつもと少し違う気がする」といった現場の経験や感覚を生成AIとの対話に持ち込めば、その気づきは整理され、新たな知識として蓄積されていきます。

私は、生成AIの価値は知識を増やすことではなく、人が長年積み重ねてきた経験を、誰もが活用できる知識へ変えていくことにあると考えています。

生成AIで熟練者の経験を「組織の資産」に変える

濱田さんは、熟練者一人ひとりが持つ経験や勘、暗黙知を「組織全体で活用できる知識」へ変えることこそ、生成AIの本当の価値だと考えています。

品質管理で長年培ってきた「標準化」の考え方を生成AIにも応用し、誰が使っても一定の成果を得られる独自のプロンプトを開発。

製造業にとどまらない生成AI活用の可能性について伺いました。

Q:独自の生成AIプロンプトも開発されているそうですね。どのような仕組みなのでしょうか。

企業で生成AIを活用する場合、一つのAIですべての課題を解決しようとしても難しいんです。

経営者と現場スタッフでは、求める情報も役割も異なりますから、目的に応じてAIを使い分ける仕組みが必要になります。

そこで私が開発したのが、用途別のプロンプトです。

熟練者の経験やノウハウを引き出し、暗黙知を言語化する「匠(たくみ)プロンプト」。報告書や対策書、技術文書などをブラッシュアップし、組織の知識として蓄積する「刀(かたな)プロンプト」です。

さらに、それぞれを経営者向け、部長向け、設計者向け、現場スタッフ向けに展開し、合計8種類のプロンプト体系として標準化しています。

品質管理では「誰が担当しても一定の品質を保てる仕組み」をつくることが重要です。

私は生成AIも同じだと考えています。誰が使っても一定の成果を得られるように標準化することで、生成AIはより実践的なツールになります。

現在、このプロンプト体系は商標登録も進めています。

Q:こうした生成AIの活用法は、製造業以外の業界でも応用できそうですね。

はい。私は、生成AIを製造業だけのものだとは考えていません。

たとえば企業では「新人がなかなか育たない」「ミスや不良が減らない」「ベテランの退職によってノウハウが失われる」といった課題があります。

こうした悩みは、業種を問わず多くの組織に共通しています。

実際に、行政機関の職員の方を対象にお話しする機会がありましたが、そこでも「ベテラン職員の知識や経験をどう次世代へ引き継ぐか」が大きなテーマになっていました。

だから私は、生成AIは単なる業務効率化のためのツールではなく、熟練者の経験や暗黙知を言語化し、組織全体で活用できる「資産」へ変える仕組みだと考えています。

製造業はもちろん、行政やサービス業など、経験やノウハウが価値になる仕事であれば、AIの活用は大きな可能性を持っていると思います。

人生経験が豊富であるほど、生成AIを使いこなせる

「生成AIは若い世代のためのツール」と思われがちですが、濱田さんは「経験を積んだ人ほど、その価値を引き出せる」と話します。

長年培ってきた知識や経験は、生成AIによって整理され、新たな価値へと生まれ変わります。

だからこそ、50代・60代がこれから新しい挑戦を始めるうえでも、生成AIは心強いパートナーになり得るのです。

最後に、生成AIとの向き合い方と、これから活用したいと考える方へのメッセージを伺いました。 

Q:現在のような生成AIの活用法は、どのように身につけられたのでしょうか。

最初のきっかけはYouTubeでした。

生成AIの使い方を紹介する動画は数多くありますし「議事録を作る」「資料作成を効率化する」といった基本的な活用法は、とても参考になりました。

もちろん、それだけでも十分便利ですが、私が本当に実現したかったのは、その先にある活用でした。

具体的には、熟練者が持つ経験や勘、つまり暗黙知を言語化し、組織の知識として残していくことです。

それができなければ、ベテランが退職するたびに企業は同じ失敗を繰り返してしまいます。

日本のものづくりは、現場で培われた熟練技能によって支えられてきました。だからこそ、その経験や知恵をAIで未来へ引き継ぐことができれば、日本の製造業はもっと強くなれる

私は、その可能性に大きな期待を持っています。

Q:生成AIに興味はあっても、「自分には難しそう」と感じている方も少なくありません。そんな50代・60代の方へ、最初の一歩として伝えたいことはありますか。

私は昔からWindowsやWordを仕事で使っていたので、パソコンに抵抗はありませんでした。

その延長線上に生成AIがあったので、比較的入りやすかったのだと思います。一方で、普段あまりパソコンやスマートフォンを使わない方にとっては、AIにハードルを感じるのも自然なことです。

だからこそ、最初から「使いこなそう」と思わなくていいんです。

まずはYouTubeで初心者向けの動画を一本見てみる。実際に生成AIへ一つ質問してみる。そのくらいの気持ちで十分だと思います。

実際に触れてみると「こんなこともできるのか」という発見が必ずあります。

そして、AIは決して若い人だけのものではありません。むしろ、長年仕事をしてきた人ほど、自分が積み重ねてきた経験や知識を生成AIとの対話によって整理し、新しい価値へと変えていくことができます。

経験があるから生成AIは必要ないのではなく、経験がある人ほど、AIは大きな力を発揮する。そのことをもっと多くの方に知っていただきたいと思っています。

 

濱田さんのお話を通して見えてきたのは、生成AIは人の経験を置き換える存在ではなく、その価値を引き出し、未来へつないでいくパートナーだということでした。

40年以上にわたって積み重ねてきた知識や失敗、そして数々の気づき。それらを生成AIとの対話によって整理し、新たな価値へとつなげていく姿は「経験はこれからの挑戦を支える財産」であることを教えてくれます。

これまで培ってきた経験に、新しい学びや技術を掛け合わせれば、その可能性はさらに広がります。

あなたも、これまでの経験を強みに、新しい一歩を踏み出してみませんか。