【起業事例】定年前に52歳で起業。行政書士として相続等の分野で活躍。成功のカギは早めの決断。

寺田 淳 プロフィール

1957年 東京都杉並区生まれ。
1980年 中央大学経済学部卒業。
同年  電機機器メーカーに就職。
2009年 同社を退職。在職中に取得した資格で、2011年に行政書士事務所を新橋駅前に開業、現在に至る。

若いころに取得した行政書士の資格を生かし、定年前の52歳で退職

行政書士の資格を取得した年齢、実際に起業した年齢を教えてください。

行政書士を目指し、資格取得をしたのは27歳のときです。当時、電気機器メーカーで営業の仕事をしていて、成績は絶好調でした。その一方で、技術職の同僚たちと比べ、文系の自分には資格や特技があるわけではない。「今はいいものの、このままでいいのだろうか」と思うようになりました。そして、自然と「会社の看板が無くなった自分」というものを考えるようになりました。

漠然とした不安と焦燥感をバネに試験勉強をし、受験をすると、おかげさまで初回合格することができました。とはいえ、すぐに退職する気はありませんでした。何かあったときや定年を迎えたあとで役立てようと考えていました。

「そろそろ資格を生かそう」と思ったのが50歳のときです。当時、会社の業績が下がってきて、55歳以上の社員に退職勧奨を始めました。明日はわが身だと思い、具体的に考え出しました。そして52歳のとき、私の年代にも早期退職の募集が始まりました。これはチャンスだと思い、退職しました。

退職から2年後に開業。先輩の事務所で実務を学ぶ

開業は退職の2年後ですが、その間はどう過ごしていたのですか?

まず、業務内容について考えました。行政書士は車庫証明申請の作成といった個人向けから、許認可申請、会社設立などの法人向けまで幅広い業務を請け負うことができます。これは行政書士の良いところです。

ただ、私の特徴を出していくためには、専門分野が必要でした。そこで、数人の先輩の事務所で実務を学んだり、はやりの業務内容について情報収集をしたりしました。こうしているうちに2年近くたちました。

割り増しされた退職金とそれまでの蓄えを合わせると、今までの月収換算で向こう3年間は仕事がなくても食べていけることがわかりました。だから焦りや不安はありませんでした。

私見ですが起業までに財政基盤はしっかり作るべきです。先立つものがないと日々の暮らしが不安になります。

この焦りから仕事を選ばないで安請け合いを始め、どんどん視野狭窄(きょうさく)になってしまいます。私はこうなるのは嫌だったので、十分な財政基盤を固めました。退職後の2年間、「何をやれば脈があるか」「事務所をどこに構えればいいか」といったことを十分に考えられたので、このやり方が間違っていなかったと思っています。

行政書士として遺言、相続などの業務分野に絞って展開

現在の主な事業内容を教えてください。また、起業時から変わりましたか?

現在の主な業務内容は、実は行政書士の専門業務ではない起業相談です。開業時は、遺言、相続、墓じまい、後見といった終活に関連する業務が主でした。

2年間の開業準備期間に流行の業務について情報収集しました。すると、当時はまだ遺言、相続、墓じまい、後見の業務を前面に出している事務所は少ないと感じました。また、世間では遺言相続は弁護士というイメージが強く、相談料が高いというイメージもありました。今なら競争相手も少なく、かつ需要が見込めそうだ、ということで終活にまつわる業務を専門にすることに決めました。

行政書士の業務では会社設立の手続きや飲食店開業の手続きなどのメイン業務は、すでに行政書士の中でトップ、二番手三番手といて、層が出来上がっていました。年を取ってからの起業ですから、既存の業務で顧客を開拓していくのは難しいだろうとも思っていました。競合が少ない分野でやっていこうと考えたことも、業務内容を決める要素となりました。

開業から6年が経った今では、先に述べたように起業相談が主な業務に変わりました。起業相談のセミナー講師や雑誌の取材・連載も引き受けています。起業相談が業務になるとは思ってもみませんでした。小さくともブログで発信し続けていたことが事業につながっていきました。

起業相談では、自分に近い年齢層のクライアント様からの起業相談を主に受けています。私自身の起業の決断のポイント、起業のプロセスなどをお伝えしています。経験談なので成功ポイントも失敗ポイントも机上の空論ではないということが、クライアント様に受け入れられている理由だろうと考えています。

また、50代、60代での起業を視野に入れたクライアント様のみなさんの中には、「若造に偉そうにされるのはどうも…。かといって、高齢の方から昔の成功例を聞いても…」といった思いがあるようです。だから、リアルタイムの世代である私の経験談が受け入れられているのだと思います。

それから、法人と顧問契約をし、自社営業力強化、営業のイロハ取得などのセミナーも行っています。営業マン時代のスキルを認めてくれた元取引先の方が声をかけてくれました。こういったコンサルのような業務が件数・売上ともに今は増えています。

退職後にコンサルタントと契約。WEBの勉強を中心に営業活動の毎日

起業・開業を決めてから取り組んだことは何ですか?

退職後に、まず起業コンサルと契約をしました。起業に向けて理念を構築しようと思ったからです。

開業を決めてからは、それまで見向きもしなかったSNSを勉強しました。まずは詳しい友人に聞いて、Facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)を始めました。ブログの書き方は、専門のコンサルから学びました。「色はこう、文字サイズはこう」と一から詳しく学びました。実際に作った文章をチェックしてもらうのですが、当初はずいぶんと添削されました。5年間コンサルを受け続け、やっと今は読者を意識した文章が書けるようになりました。

昔のようにチラシを配ったり、電話帳に名前を載せたりしても、お客さんは来てくれません。「自分が相談する立場だったら」と考えても、今の時代にチラシや電話帳で問い合わせはしません。

だからブログやFacebookで人となりを「魅せる」必要があります。顔写真を出したりして身分保証もすべきです。

私は勉強するまでSNSを胡散臭いものと見ていましたが、今では人脈を広げたり、営業活動に有効なツールだと感じています。流行のものははやるだけの理由があるのだと痛感しました。

開業準備期間には、多くの知り合いに開業挨拶のハガキを出しました。自宅近くの行きつけの居酒屋、散髪屋など身近な知り合いにも案内を配りました。私は営業マンだったので飛び込み営業に抵抗がないため、こうした営業活動がスンナリできました。営業活動が不得手という方でも、この程度は自分で汗をかく覚悟は持ってもらいたいです。

仕事についていろいろ考える時間が楽しく、不安はなかった

実際に起業し、ひとりで活動を始めて不安はありましたか?

会社勤めだと上下関係などのしがらみがありますが、起業すれば無縁になります。その開放感は大きかったです。

それから強い責任感が芽生えてきました。もちろんサラリーマン時代も責任感はありましたが、それとは違う感覚でした。仕事についていろいろと考えることも楽しめました。あまり不安ありませんでした。

今はひとつ不安があります。ひとりで業務を請け負っているので、もし私が何らかの事情で業務遂行ができなくなった場合、受任している仕事をどうしようという心配です。

開業当時の案内ハガキが6年後に反応あり。地道な活動が功を奏す

起業後のエピソードを教えてください。

私は母親を亡くしているため、定期的に菩提寺の方々と交流がありました。お寺なのでいろんな悩みを持った檀家さんがいらっしゃるのですが、そのたびに事務局のスタッフさんが私のことを紹介してくれていたそうです。この後押しのおかげで、相続や墓じまいといった業務を数多く受任することができました。 

口コミで仕事につながっていったのはうれしかったですし、自営業の醍醐味だなと感じました。

サラリーマン時代の同僚が、相続問題に関わる年齢になってきたので、「こんなことはできる?」と連絡をくれるようにもなってきました。

6年前に出した開業案内のハガキが今になって効いてきたようです。ここまでを期待していたわけではありませんが、開業当時に地道な営業活動をしていなかったら、こうなっていないのですから、やはりやっておいて良かったと思います。

手取りは減っても、働き続けられる環境に十二分にメリットがある

起業後、収入面はどう変化しましたか?

サラリーマン時代のピークのようやく半分くらいです。この年になってお金の価値がわかったような気がします。

しかし、生活レベルは変わっていません。サラリーマン時代はゴルフ、飲み会、スーツや靴の新調と、付き合いや見栄の出費がいかに多かったかということでしょう。

ただ、会社に勤めていても50代半ば以降は給料が下がり、最終的には半額以下が一般的な世間と比べればこんなのかとも思います。

しがらみがないので好きに楽しめるし、定年以降も自分のペースで仕事もできますからメリットは十分あります。

一番大切なのは何歳で起業するかを早く決めること

起業を目指す人へメッセージをお願いします。

実は私自身、50歳をめどに辞められるように動いていれば良かったなと思うことが最近増えてきました。どの業界であっても、実務経験を積まないと始まりません。ある地点に到達するための準備期間が長いに越したことはありません。

起業を選択するなら、まず、周りに流されたり、便乗しようとしたりするのはいけません。

その人はそのタイミングだから成功したわけで、その人のやり方は今の時間軸には当てはまりません。

また、趣味を仕事にするのはなかなか難しいことです。好きなことでも仕事になってしまうとモチベーションが保てなくなるし、商売として考えられていない場合も多くあります。悪いとは言いませんが、ハイリスクなことと自覚してください。

そして一番大切なのは、何歳で起業するかを決めることです。この年齢には独立してこれをやっていたいと決めれば、いつまでに何をすべきかが見えてきます。起業準備は人によっては1日2時間ずつでいいかもしれないし、日々全身全霊を注ぎ込まないと間に合わないかもしれません。時間に余裕があれば、ワンランク上の開業だって目指せるかもしれません。

特に今後は40代からセカンドキャリアを考えないと間に合わない時代になると痛切に感じています。

今は充実した仕事に就いていても、会社の将来性、自分のポジション、子どもにかかるお金、親の介護の問題、減っていく年金など、従来のライフプランが通用しなくなる世代が40代だと思います。 早く考えること、始めることがこうした事態への備えの第一歩になるはずです。