【起業事例】定年を待たず57歳でコンサルタントとして独立し、企業の海外進出をサポート

杉浦 直樹 プロフィール

1957年生まれ。1979年 松下電器貿易入社、電子部品・半導体輸出営業
1986年 アメリカ松下電器 北米パナソニックインダストリー社出向、企画管理課長
1994年 松下電器産業インダストリー営業本部 海外販社インダストリー営業所 企画課長
1998年 パナソニックインダストリーヨーロッパ(英国)出向、企画部長
2000年 松下電器産業 本社 経営企画室、海外企画G チームリーダー
2010年 パナソニックベトナム出向 取締役、経営企画・ブランド戦略・渉外・法務・環境担当
2013年 パナソニック退社
2014年 リープブリッジVJ中小企業診断士事務所を創業
2017年 株式会社リープブリッジVJパートナーとして法人化

50歳の頃に、定年後を見据えて資格取得を考えるようになりました。

定年を意識するようになったのはいつ頃からですか?

私は大学を卒業後、電器メーカーに就職しました。会社では一貫して海外事業に携わり、海外赴任も10年以上の経験があります。定年を身近に感じた50歳の頃は日本の本社勤務で、経営企画室、海外事業戦略グループを担当していました。

30余年にわたる会社員人生の中で培った経験や能力を、経営企画や海外事業戦略に生かしていくためには、企業の売上アップやコスト削減など事業運営の知識が学べる「中小企業診断士が役に立つ」と考えたことがこの資格を選んだきっかけです。

ただこの時点では、起業することはあまり考えていませんでした。むしろ、転職を視野に入れた人生設計をしていて、60代に入り定年した後に資格や経験をもとにコンサルティング業ができればいいなという感じでした。

試験合格には意外と苦労し、4年かかりました。53歳で資格を取った後すぐに3回目の海外勤務の辞令が出てベトナムに赴任しました。

定年まで待つ必要はない!早期退職を決意して独立開業を準備

起業を決意したきっかけを教えてください

4年間のベトナム赴任で感じたのが、海外展開する中小企業には支援の手が必要だということでした。当時は、多くの中小企業が適切なサポートもないままベトナムに進出してくることが多く、現地法人の責任者は苦労していました。

中小企業診断士の知識や海外勤務の経験などを生かして支援したいと思っても、当時は会社員としての本業があり、仕事と掛け持ちで行うことは難しい状態でした。

しかし、現地の状況を目の当たりにする中で「海外展開を目指す中小企業をサポートするために起業したい」という気持ちがどんどん高まっていきました。定年を迎える60歳まで起業を待つ意味があるのかどうか自問自答した結果、57歳で早期退職を選択しました

2013年10月に退職を決め、ベトナムから帰国してすぐの12月末に会社を辞めました。正月三が日は休みましたが退職後すぐに事務所探しを始め、1月5日にはシェアオフィスを見つけるなどスピード感を持って動きました。

その後「何のために事業を始めるのか」「提供する顧客価値は何なのか」など事業理念を考えたうえでホームページの開設に取りかかりました。ホームページに掲載する原稿づくりを行う中でさらに思考が整理され、事業の骨格を固めることができたのは良かったと思います。

並行してオフィス環境を整え、メールアドレスなどを確定するとともに、公的機関のアドバイザー募集に応募したり、営業用資料の作成をしたり起業準備をしていました。そんな中、海外展開をする事業主から支援の依頼をいただき、受注が確定する3月に個人事業主として事務所を開業しました。

最後の赴任地ベトナムへの強い思いがコンサルタントとしての原動力に

事業内容を中小企業のベトナム進出支援に決めた理由は何ですか?

私が最後にベトナムに赴任したのは2010年でしたが、ちょうどその頃から中小企業のベトナム進出が増え始めました。しかし現地の担当者は1人だけで、その担当者も長年製造などを専門としてきた人で、経営や経理の知識を持っていないというケースが少なくありませんでした。

さらに、ものを売ったことがない、人を採用したことがない……といった「ないない尽くし」の状態で右往左往。言葉の壁もあり、みなさん非常に苦労していました。それまでも、海外に新規拠点を作るための支援サービスはありましたが、経営そのものを支援するコンサルタントはあまりいませんでした。中小企業診断士の中でも、海外経営を専門としている人は少なかったので「海外勤務の経験がある自分がやるしかない!」という使命感が芽生え、中小企業の海外進出から人材育成、経営まで幅広く支援をしていくことを決めました。

私自身が現地で事業を興す選択肢もあったのですが、中小企業の場合、決定権を日本側が持っているケースがほとんどです。そのため、海外の拠点だけを支援してもうまくいきません。日本の中小企業の海外進出を支援するためには、国内でコンサルティングするのが良いと判断しました。

会社員として最後の勤務地となったベトナムには、私自身の強い思い入れがあります。そしてベトナムの未来を築いていくためには、日本の中小企業の進出、発展が大きく寄与すると考えています。

今は貧しくとも、懸命にがんばっているベトナムの人たちの暮らしをより良いものにしていくために、自分にできることで貢献したい、生涯をかけたライフワークにしたいと思ったことも起業への原動力となりました

事業内容の充実を図るために株式会社を設立

個人事業主から法人化へ転換されたきっかけを教えてください。

個人事業主として創業してから3年たった2017年に、法人化し「株式会社リープブリッジVJパートナー」を発足しました。

法人化した理由は、中小企業の海外展開支援をさらに充実していきたいと思ったからです。

公的機関も中小企業の海外展開支援を行っていますが、基本的に単年度の専門家委託で、その後何年もサポートが続くわけではありません。つまり、一歩前へ進むと「卒業」ということになります。しかし現実的にそれでは不十分で、中小企業の多くは継続的な支援を求めています。

公的機関の支援制度では対応が難しい「進出後」の支援は、私のようなコンサルタントが大いに役に立てるところで、中小企業からもさまざまな要望があります。日本とベトナムで展開する事業を継続的に支援していくためにも、社会的に信用度の高い法人にするのが良いと考えました。

資格を持っているだけでは生き残れない。自分ならではの価値を提供することが大切

これから起業したいと考えている人へアドバイスをお願いします

2016年の日経新聞で日経HRが実施した「ビジネスパーソンが取得したいビジネス関連資格ランキング」では、中小企業診断士が1位に選ばれています。

しかし、中小企業診断士という資格は「足の裏の米粒」、つまり「食えない資格」とさえ言われています。世の中には中小企業診断士以外の士業は多くありますが、資格が飯を食わしてくれるわけではありません。あくまでスタートであって、その資格で何ができるか、どういう価値を提供できるかがすべてです。

起業を考える人は、みなさん何らかの資格なり専門分野なりを持っていると思います。しかし、それを生業としている人は他にも山ほどいます。生き残るためには、大勢の中から自分を選んでもらう理由を明確にしないといけません。

そして選ばれるためには、資格以外にプラスアルファの強みを持つことが大切です。私の場合であれば「中小企業診断士」プラス「海外専門」となります。起業では、資格以外の部分で、専門性を絞った強みを持てるかどうかが勝負になってくると思います。

自分のお客さまが求めている価値を考え、今持っている資格にプラスアルファの価値を持たせていくこと、常に新しい価値を提案していくことが事業継続には欠かせません。

起業は自由度が高い反面、仕事が途切れるとその時点で収入がゼロになるという厳しい世界です。私自身も2年目あたりから顧客開発と顧客価値をブラッシュアップするために、他の士業の専門家とも連携を広げています。また、ベトナムなど現地でのネットワークづくりが大事だと深く感じるようになりました。

人脈づくりや知見を広げるために士業向けの経営塾などにも参加し、幅広い企業からの要望に、私ならではの価値を提案できるように努力しています。海外支援専門の中小企業診断士と合同でセミナーを開催したり、ホームページやマイベストプロなどのウェブを活用したり情報発信も強化しています

次世代に残していける理念なき起業に未来はなし

事業を続けるうえで大切にしていることを教えてください。

起業を、単にお金を稼ぐ手段として考えているのであれば厳しいと思います。大切なのは「○○で社会に貢献したい」「次世代のために○○を残していきたい」など明確な理念を持つことで、それが顧客に伝わらなければ事業を軌道に乗せるのは難しいでしょう

最後に、私が大切にしている言葉をご紹介します。
「次世代にカネを残すのは鉄の斧、仕事をつなぐのが銀の斧、そして人を育て引き継ぐのが金の斧」

理念なき起業に未来はありません。理念をしっかり持ち、それを次世代に残していける事業を行うことが大切です。