【起業事例】30年以上に及ぶ不動産業界の経験から、不動産オーナーの負を解消したいと58歳で起業
インタビュー
20年以上温め続けてきたアイデアを具現化するべく、起業を決意。準備期間1カ月でのチャレンジに不安はあったけれど「後悔して死ぬよりはいい」と個人事業主の世界へ飛び込みました。その裏にあった強い思いとは?
後藤雄二(ごとうゆうじ)プロフィール/株式会社アセットサポート 早稲田大学 社会科学部 社会科学科卒業。 大学卒業後、約5年間にわたって編集職に従事。その後、大学在学中に取得した宅地建物取引士の資格を生かして不動産業に転職。以来、複数企業で主に営業・管理担当としてキャリアを形成。2018年に独立し、株式会社アセットサポートを設立。 現在は、不動産の売買・仲介・管理業務を幅広く手掛けるとともに、不動産の自主管理・直接取引サポートを行う自社運営サイト「おさぽ」を主力サービスとして展開。
「会社で叶えられないなら、自分でやろう」迷わず58歳で起業を決断
Q:起業をしようと思ったきっかけは何ですか?
不動産業界に身を置いて30年以上、ずっと不動産オーナーが置かれている状況を変えたいと願ってきました。そこで生まれたアイデアが、管理会社を介さずにオーナーが不動産を自主管理し、借りたい人と直接取引ができるサービスです。 20年もの間、温め続けてきたこのアイデアを、当時勤めていた会社でやりたいと提案したのですが、誰もやったことのないまったく新しいサービスで収益を見込めるかわからないと、残念ながら採用されませんでした。 「それならば自分でやろう。58歳の今しか、もうチャレンジできるタイミングはないだろう」 そう思って、すぐに起業を決めました。せっかくやりたいことがあるのに、あきらめるという選択肢を選びたくないと思いました。
「やらないで後悔するよりずっといい」準備期間1カ月で果敢に挑戦
Q:起業のための準備期間はどのくらいでしたか?不安はありましたか?
それまでは起業をしようとは思っていませんでしたから、何の準備もしていませんでした。会社を辞めたら収入がなくなってしまいますので、なるべく早く事業を始めた方がいい。事務所を借りたり、備品を揃えたりと、およそ1カ月でバタバタと準備し、開業しました。 うれしかったのは、事務所を貸してくれたオーナーさんが、「応援するよ」と言ってくれたこと。これまでお付き合いしていたお客さまからも応援の声をいただいて、一歩を踏み出しました。 もちろん、大きな不安はありましたが、目標が明確だったので迷いはありませんでした。今も、まったく後悔はありません。もし「起業しない」という選択をしていたら、そちらの方がきっと後悔していたでしょうね。
長きにわたる「当たり前」にアンチテーゼを提示して、不動産業界を変えたい
Q:なぜこの事業を展開しようと思われたのですか?
私がこの事業を立ち上げたのは、管理会社が優位になりがちな不動産業界のあり方に疑問を抱いていたから。 不動産の管理や入居者の決定など、あらゆる面で管理会社が介入するのが業界の常識ですが、管理会社の業務が不透明で、不利益を被ってきたオーナーさんたちがたくさんいらっしゃいます。 管理会社には専門知識がありますから、オーナーさんたちは言われたことに従わざるを得ない。不動産業界で働く中で、そんな関係性を多々見てきました。 その現状を変えなければいけない、もっといいやり方があるはずだと思案して生まれたのが、現在運営している「おさぽ」というサービスです。オーナーさんたちからの相談を無料で受け付け、物件の掲載も無料。必要であれば、より手厚いサポートをオーダーメイドでさせていただくという事業です。 儲けだけにとらわれない、透明性のあるサポートをする。それがこのサービスの大きな特徴です。
収益を上げる業務と、本当にやりたいことのバランスをうまくとる
Q:現在の事業の状況はいかがですか?順調に収益が上がっていますか?
「おさぽ」は入り口が無料相談や無料掲載で、その先に管理サポートのサービスがありますから、必ずしもすべてが収益につながる事業ではありません。でも、業界にとって必要なことだと思ってやっています。これが私のやりたいことですから。 とは言え、やりたいことだけをやっていては、事業は成り立ちません。ですからこれまでの不動産業界での経験を生かして既存の不動産業で収益の軸をつくり、それをもとにやりたいことに取り組むスタイルで、現在は業務を行っています。 ゆくゆくは、「おさぽ」の事業だけで収益を上げていくことを目指していますが、それにはまだまだ知名度が足りません。知ってさえもらえれば、良さをわかっていただける事業だと胸を張って言えますから、これからですね。
唯一無二のサービスをもっと多くの人に知ってもらうため、前を向き続ける
Q:現在抱えている事業の課題と、それを克服するための工夫は?
サービスが浸透していないこと。それに尽きますね。ホームページをわかりやすく改定したり、サービスを見直したり、広告を打ったり。立ち止まらずに日々どうすればいいか考えて、さまざまなチャレンジをし、事業をアップデートしていくことが大切だと思っています。 私と同じような事業をしている人は、他にはきっといないはず。それだけ事業として成立させるのは難しいサービスではありますが、顧客の数さえ増えれば収益につながるのはもちろん、ひいては不動産業界の改革にも広がっていきますから、やりがいを持って取り組んでいます。 特に目標としている経営者像はないのですが、ビジネス書など本をたくさん読んで、常に自分自身を磨くことも心掛けています。 不動産の自主管理・直接取引をサポート「おさぽ」
独りよがりにならないよう、第三者の意見を聞くことを心掛ける
Q:起業して良かったことは何ですか?
会社員時代から仕事を「やらされている」と思ったことはなく、常に目標を持って取り組んできましたが、当時と決定的に違うのは、制約なしで好きなことを自由にやれること。その部分はやはり大きいと思います。 注意しなければならないのは、好きなことをやれるというのは、一つ間違えば独りよがりになってしまうことでしょうね。だからこそ、第三者に意見を聞くようにしています。顧客にも積極的に意見を求めますし、最近試しているのが、会社に来る営業さんと話をしてみること。 事務機器とか広告とか、いろんな営業の担当者から連絡が来るんです。普通なら取り合わないと思いますが、私はなるべく会うようにしていて。自社のサービスをどう思うか聞いたり、相手の業界の現状を聞いたり、情報収集の場としてうまく活用するようにしています。意外とおもしろい意見をもらえることもあるんですよ。
一つ一つのことに全力で取り組んでこそ、得られるもの、見える景色がある
Q:仕事をする上でモットーにしていることはありますか?
若い頃からずっと、仕事をする上で気を付けているのは、「このくらいでいいか」と手を抜かずに、何事にも全力で取り組むこと。 全力でやっても必ずしもすべてを達成できるわけではありませんが、自分の今の実力がわかります。自分に足りないものがわかれば、改善する努力をしますよね。それによって、成長につなげることができるんです。手を抜いてやれば、やり遂げられなくても、「がんばればできたのに」と思うだけで、そこからは成長しません。 それに、全力で取り組むことによって達成感が得られます。仕事に対する自分の満足度も上がる。結果はもちろん大切ですが、過程をおろそかにしないことが自信につながるはずだと信じて、これまでやってきました。これからもそのスタンスを変えることなく続けていきたいと思っています。
人生100年時代、会社が守ってくれるわけではないから、自分の力で生きていく
Q:50歳を過ぎてから起業にチャレンジすることの価値は?
人それぞれ価値観が違いますから、起業をせずに会社員でいいと思う人もたくさんいるでしょう。 でも、100歳まで生きることが当たり前だと言われている時代において、定年後も働き続けることは必須です。けれど、きっと退職してから就職先を見つけるのは難しいはず。アルバイトで時間を切り売りして生きていくのは、高齢者にはかなりキツイのではと想像します。 会社は死ぬまで責任を持ってはくれないし、年金も少ない。そんな現実が待っているなら、自力で何かしないといけないですよね。そう考えると、人生100年時代を生きていく上で起業という選択をするのもありなのではないかと。 50歳を過ぎてからでも決して遅くないと、私は思います。
「儲けたいから起業する」では続かない。目的意識と思いを持つことが大切
Q:現在、起業を考えている人にメッセージをお願いします。
起業したいと思っても、周囲の反対があったり、家族を養わなくてはいけないというプレッシャーを感じたりして、ためらう人は多いでしょう。私自身も生活していけるか不安な部分はありました。 でも、本当にやりたいことがあるならやった方がいい。「ただお金がほしい」「儲けたい」そんな気持ちだけでは、最初はよくても頭打ちになってしまうでしょう。 大切なのは、「誰かのために必要だ」と思うことをすることです。大きな目的があるからこそ思い切って飛び込めるし、続けていけるのではないでしょうか。 私には不動産オーナーさんたちの負を解消して、不動産業界を変えたいという意志があります。だから、日々いろんなことを考えて、工夫して、事業を上向かせようと努力できる。目的意識と思いがあるなら、ぜひチャレンジしてみてください。
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