出版費用の相場や内訳について解説。電子出版、クラウドファンディングの活用も
コラム
企業や自治体などでコンサルティング、人材研修、アドバイザーとして活躍するうえで、本を出版しているのは大きなアピールポイントです。 本を読んだ人から仕事の依頼があるケースも増え、さまざまなメリットを享受できるでしょう。 ただし、本の出版にもいくつかの種類があり、どの方法で出版するかによって費用も大きく変わります。出版にはどういった種類があり、それぞれの出版費用の相場はいくらぐらいなのでしょう。また、最近はやりの電子出版、インターネットを使い不特定多数の人から少額ずつ資金を調達するクラウドファンディングについても詳しくお伝えします。
出版費用の内訳について
出版方法の種類や費用の相場を知る前にまず、本を出版する費用にはどういったものがあるのか、その内訳について説明します。自費、商業出版など出版の種類によっても変わりますが、本を出版する際に基本的にかかる費用には次のようなものがあります。
編集者の人件費
著者と打ち合わせをするなど、一冊の本を制作していくうえで欠かせない編集者にかかる人件費です。
デザイン費
本のカバー、装丁、本文のフォントなど本にかかわるすべてのデザインにかかる費用です。また、本文にイラストや写真を入れる場合、イラストレーターや写真家に払う賃金も発生します。
DTP費
Desk Top Publishing(デスクトップパブリッシング)の略で、日本語では卓上出版、机上出版などと訳されます。パソコンを使いデータを作成し、本として印刷できる形に調整する費用です。
校正費
校閲費とも呼ばれるもので、著者が書いた文章をチェックし、修正するための費用です。
印刷代
印刷にかかる費用です。印刷代は用紙によって大きく変わります。特殊な用紙を使った印刷になると、通常よりも高額になります。
本の制作にかかる主な費用は上記ですが、出版となるとこれに流通のための費用もかかります。書店に本を置いてもらうための営業を依頼する場合は、営業担当者に対する人件費、本の問屋に支払う手数料、本を保管するために倉庫代、棚代などです。また、本を売るための広告費も流通費用に含まれます。
出版の種類について
普段、何気なく手にとっている本は、どのような工程を経て書店に並んでいるのでしょうか。ここでは、出版の種類を紹介します。
自費出版
自費出版とは、文字通り、著者が自分で費用を出して出版するものです。本を出版する本人が費用を出すため、個人出版と呼ばれる場合もあります。
また、自分で書かず、ライターに依頼して書いてもらうこともできます。イラストも同様で、物語を自分で考え、絵はイラストレーターに依頼することもできます。ただし、ライターやイラストレーターに支払う費用も発生します。
協力出版
協力出版とは、出版社と著者が費用を負担して本を出す方法です。出版社によっては共同出版と同じ意味で使っている場合もあります。出版社により異なりますが、原稿初版にかかる費用を著者が負担し増版後は出版社と折半、または出版社負担、といった流れです。
書店に「自分で書いた本が並ぶ」など、出版社の流通ルートを活用できるメリットも挙げられますが、自費出版の一種と考えていいでしょう。
自費出版は、出版した本の所有者は著者本人で、本の売上は著者に入ります。協力出版では多くの場合、出版した本は出版社の所有物となります。そのため、本が売れた場合の売上は出版社に入り、著者には印税が支払われることになります。
商業出版
自費出版に対し、商業出版とは、基本的に小説家、作家、研究者や著名人に出版社側から依頼し、本の制作から流通まですべての費用を負担する出版方法です。そのため、著者が出版に際して負担するものはありません。また、出版社が主催する文芸賞の受賞作を書籍化する場合も、出版社がすべての費用を負担し、商業出版として流通させます。
商業出版のもう一つの種類として、企画出版があります。新聞や雑誌などで出版社が原稿を募集し、優秀作があった場合に、出版社が費用を負担して出版する形式です。出版が決まれば、後は通常の商業出版と同様の流れとなり、売上に応じて印税も支払われます。また、出版社に持ち込まれた原稿のなかでも編集者が優秀と認めたものは、この企画出版という形で出版されることがあります。ただし、出版社によっては協力出版となる可能性もあります。
商業出版の費用
それでは、実際に本の出版をする際にかかる費用相場を出版方法別に紹介します。まずは商業出版です。前項で説明したように商業出版は、出版に関して著者の負担はありません。しかし、それは出版社側から依頼があった場合です。企画出版も含め、著者側からの働きかけにより商業出版する場合は、何かしらの費用がかかります。具体的には次のようなケースが考えられます。
投稿や持ち込みによって企画を売り込む場合
出版社へ出向くための交通費や売り込みを行う際の電話代、原稿を送る郵送費がかかります。
編集者と知り合いになり企画を売り込む場合
何のつてや人脈もなく、いきなり出版社に持ち込んだり、投稿をしたりしても企画が通り出版につながる可能性は限りなく低いといえます。特にこれまでに何の実績もなければ、その確率はさらに低くなるでしょう。そこで、何かしらのつてや人脈をつくり、企画を通りやすくする方法があります。偶然、編集者と知り合える可能性は低いため、おすすめは出版記念セミナーへの参加です。無料セミナーであれば名刺代、有料セミナーであれば名刺代に加え参加費を負担します。
出版のためのスクールに通う場合
本の企画から書き方、編集者への売り込み方法などを教えてくれるスクールに通う方法です。スクールにもよりますが、現役の編集者が講師となっている場合もあり、人脈をつくるという意味でも効果を発揮します。価格相場は授業数にもよりますが、数十万円から100万円です。
出版コンサルタントへ依頼する場合
上記の方法よりも費用はかかりますが、企画が通る可能性は確実に高まる方法です。出版コンサルタントとは、本を出版したい人に対し、企画書のつくり方から、文章を書くコツ、出版につながりやすい企画の考え方などをマンツーマンで指導するものです。価格は、依頼先によって異なりますが、数十万円から100万円。なかには150万円を超える場合もあります。
出版プロデュースへ依頼する場合
出版スクールやコンサルタントは、費用が最低でも数十万円はかかるうえ、ほとんどの場合、出版の確約があるわけではありません。仮に出版が叶わなくても、その費用は同じだけかかります。しかし、出版プロデュースは、内容的には出版コンサルタントと大きな違いはないものの、費用は成果報酬型です。そのため、出版が決まらなければ初期費用(着手金)として数万円程度で済みます。また、出版が決まった際の報酬は、印税から算出されますが、相場は着手金がある場合は、印税の2~4%、着手金がない場合は2~8%程度です。
出版社が募集する企画に応募する場合
先述した企画出版ですが、基本的にはインターネット上で応募する場合は、フォーマットが用意されているので、それに書くだけのため、特に費用はかかりません。原稿用紙に書いて郵送する場合は、原稿用紙代と切手代がかかります。
編集者からの依頼に応じて書く場合
編集者側からの依頼によって書く場合、費用は出版社が負担するため、著者に費用は発生しません。ただ、著名でない人、一回も本を出した経験がない人に編集者から依頼がある可能性はとても低いのが現実です。ただ、最近は、ブログやTwitterといったSNSで多くのフォロワーを持つ人などは編集者の目に留まって声がかかったり、企画書が通ったりする場合があります。
ここまでは、出版が決まるまでの費用を説明しました。ちなみに実際に出版が決まった場合にかかる費用ですが、商業出版では「著者に対する印税が最大で定価の1割」「販売費、流通費、編集・校正・装丁デザイン費、DTP費、宣伝費などで6割」これら合わせて7割が出版費用となるのが一般的です。そして、残りの3割が出版社の売上となります。
自費出版の費用
商業出版に続き、自費出版をする場合の費用について説明します。自費出版は、ページ数、発行部数のほか、本の装丁によって費用は大きく異なります。また、流通があるかないかによっても、費用は変わってきます。
さらに、例えば、ハードカバー200ページで発行部数を500部とした場合、かかる費用は出版社によって80~130万円と、大きな差が出る場合もあります。ただし、安いからといって80万円で出版した場合、流通がなかったり、出版までのサポートや宣伝もほとんどなかったりする可能性も十分にあり得ます。そうなれば、ほぼ売れずに費用だけがマイナスとして残ってしまうケースも少なくありません。
家族や知り合いに配るだけの目的で100部程度をつくるのであれば、儲けを考える必要はないでしょう。しかし、500~1000部をつくった場合、まったく売れずに費用だけがかかったとすれば、出版した意味がありません。
そのため、販売を目的として自費出版をする場合、必ず複数の出版社で見積もりを出してもらい、どこまでが料金に含まれているかをしっかりと見極めたうえで選択する必要があります。
電子出版の費用
出版というと、紙で行うものといったイメージが強いかもしれません。しかし、ここ最近では電子出版も認知度が上がり、増加傾向にあります。
2020年1月24日、全国出版協会・出版科学研究所が発表した2019年度の出版市場規模。これによると、2019年度の電子出版市場規模は、前年比23.9%増の3072億円(電子書籍は8.7%増の349億円)と、初めて3000億円を突破しています。
紙の出版市場規模は1兆2360億円(書籍は6723億円)と、電子出版はまだまだその規模に及びません。しかし、紙の出版が15年連続で前年比を下回っていることもあり、電子出版は、大きな注目を集めています。
電子出版の最大のメリットは、紙の出版に比べ大幅に費用を抑えられる点です。すべてを著者自身が行えば、ほぼ無料で出版することも可能です。また、個人で費用をかけた場合でも、表紙のデザイン、ストアごとの基準に合わせたファイルの制作で1~3万円程度で出版できます。
注意点としては、費用はかからないものの、ストアに並べてもらうには審査を通過しなければならない点。そして、もう一点が販売価格です。
2020年8月18日、インプレス総合研究所が発表した「電子書籍ビジネス調査報告書2020」。これによると、有料の電子書籍(雑誌も含む)の利用率は20%に過ぎません。そして、無料の電子書籍のみを利用しているというユーザーは24.7%です。この結果から、紙の書籍でも、売れているものであれば電子書籍でも有料で販売できるものの、電子出版だけで有料で販売するのは簡単ではないことがわかります。
また、本を出版することで、自身の商売の販促ツールとしたいと考えている場合、電子出版は紙の出版に比べ、現状ではまだ信頼感を得にくいのも事実です。ただ、スマートフォンやタブレットでも閲覧できれば、読む人の利便性向上にはつながります。そのため、紙の出版も行ったうえで、副次的効果を狙って電子出版も行うのがおすすめです。
クラウドファンディングの活用
本を出版する際にかかる費用についてお話ししてきましたが、出版社から依頼されて執筆をする商業出版は難しいため、自分で本を出すためには、自費出版の道を選ぶことになります。
しかし、自費出版は最低でも数十万円はかかるため「なんとか費用を抑える方法はないか」と考える人も多いでしょう。そこで、おすすめなのがクラウドファンディングです。
クラウドファンディングとは、群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語で、インターネットを使って不特定多数の人から資金調達をする方法です。この方法を使えば、自身ですべての費用を負担せずとも、本を出版することができます。
通常、資金を調達するといえば、銀行からの借り入れ、ベンチャーキャピタルからの出資、家族や知人からの融資などが考えられます。しかし、銀行やベンチャーキャピタルから資金を調達するのは簡単ではありません。
これまで出版経験のない人が本を出版したいといって、貸し出してくれたり、出資してくれたりする可能性はほぼゼロといえます。また、家族や知人から融資を受けるのもよほど協力的な関係性ができていなければ、やはり、難しいと言えます。
これに対し、クラウドファンディングは誰もが利用できる資金調達方法で、しっかりとしたアイデアがあれば、多くの人から支援してもらうことができます。また、クラウドファンディングを運営する事業者のWebサイトから支援を募ることができるので、ネットを通じて多くの人にアピールすることができます。
クラウドファンディングには、「購入型」「寄付型」「融資型」「株式型」「ファンド型」などがあり、本の出版であれば購入型が適しています。
購入型クラウドファンディングは、これから出版したい本の企画に対し、支援者がお金を出します。支援者は、そのリターンとして制作された本やそれ以外のものをリターンとして、著者から受け取るという仕組みです。
クラウドファンディングは、インターネットを活用した資金調達手段のため、インターネットをうまく活用できるかどうかが資金調達のポイントとなります。例えば、SNSで本の内容を少しずつ公開する。ブログを使い、なぜ本を出版したいのか、その思いを伝えるなど、多くの人に「支援したい」と思ってもらえるように、興味関心を引くために仕掛けていく必要があります。
出版費用の比較・まとめ
ひと口に出版といっても、自費出版、協力出版、商業出版、企画出版など、さまざまな種類があります。また、それぞれに特徴があり、出版にかかる費用も異なります。
出版経験がない人にとって、出版のハードルは決して低くはありません。しかし、多くの人が「興味がある、詳しく知りたい」といった分野に知見や経験を持っているのであれば、自分の本を出版することは夢ではありません。
自費出版をするにしても、クラウドファンディングで資金を集めることもできます。本を出版するために自分の強みを明らかにして、多くの人に読んでもらえる企画力や提案力、そして情報収集力、発信力などを身につけましょう。
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