【起業事例】在職中から起業を意識。定年退職を機に60歳で会議コンサルタントとして起業
インタビュー
会議やミーティングなどを生産的、効率的に進める「ファシリテーション」という手法を活用したコンサルティングを行うBTFコンサルティングの小川芳夫さん。在職中、起業後の業務をシミュレーションしながら自分の仕事を進めたことが自信につながったと言います。
小川芳夫 プロフィール 1958年生まれ。 1981年3月 東京理科大学理学部応用数学科卒業 1981年4月~1984年12月 株式会社明電舎 1985年1月 日本アイ・ビー・エム株式会社入社 2018年11月 日本アイ・ビー・エム株式会社定年退職 2019年6月 BTFコンサルティング開業
延長雇用より、自分がやりたいことでの起業を選択
起業を考え始めたのはいつ頃からですか?また、起業した理由をお聞かせください。
2018年11月に会社を定年退職し、2019年6月に起業しました。起業についてぼんやりと考え始めたのが50歳を過ぎた2011年頃で、明確に起業したいという思いを持つようになったのは2015〜16年頃ですね。業務内容としてイメージしていたのは、いま行っている業務と同じです。 起業を考えた背景には、「定年後の生活レベルをできるだけ下げたくない」という思いがまずありました。現役時代より収入が減れば、ある程度は下げざるをえないのですが、その度合いをできるだけ小さくして現状をキープしたいと考えていました。 あと、健康なうちは働いていたほうが、体も精神も良い状態に保てるのではないかと思ったのも理由のひとつです。 当時勤めていた会社には65歳まで働ける延長雇用制度がありましたが、それは選択しませんでした。外資系企業だったこともあり、年齢に関係なく仕事をこなさなければならない部分が大きく、海外との協働のために早朝や深夜に仕事をすることも多かったため、65歳までその生活を続けていくのは負担が大きいと感じたからです。 また、延長雇用は65歳までなので、「65歳になったときにどうするのか」ということも課題となります。その年齢から新しいことを始める気力や体力はあるのだろうかと考えたときに、ちょっと自信がないかな…と思いました。実際、私の周囲でも、65歳で退職した後に次のことを見つけられずにいる人を見かけます。 そういった理由を総合的に考えた結果、私の場合は元々チャレンジしてみたい仕事もあったので、退職して起業しようという結論にいたしました。
会議の課題を解決する「ファシリテーション」を伝えるコンサルとして起業
現在のお仕事内容を教えてください。
企業で行われている会議を改善するために有用な「ファシリテーション」を中核にすえたコンサルタント業です。ここでいう会議とは、「人々が集まって議論し合意形成する行為」のことを指しています。 会議をしても何も決まらないまま時間ばかりが過ぎてしまう、いつも発言する人が決まっているということは多いと思います。そういった課題を抱えている企業に向けて、ファシリテーションの価値を理解していただき、その上でファシリテーションを取り入れて会議を変革していくことを目指しています。 最初は、私が社内の会議に入って会議を進めます。何回か続けていると、その会社なりの進め方が決まってくるので、その後は社内の人たちだけでも、ファシリテーションを取り入れた会議を実施できるようになります。 会議がスムーズに進められるようになれば、それを応用して、ワークショップや新規事業の計画といった部分にファシリテーションを活用することも可能です。
在職中に一度会社へ退職意思を伝えるが会社の引き留めもあり定年後の起業に
事業内容の構想は、いつ頃からありましたか?
事業内容の構想は、会社勤めの頃からありました。会社員時代の最後の10年くらいの期間、コンサル系の職種についていたのですが、その業務のなかでファシリテーションに出会って効果を感じ、これで起業してみようと考えるようになりました。 すぐに独立することも考えて、その頃に一度、会社に辞めたいという意思を伝えています。ただ、当時はちょうど新しいプロジェクトが動き始めたタイミングで、「今あなたが辞めると困る」と引きとめられ、定年までは会社に残ることにしました。
在職中に「起業後を想定して会社の仕事をしてみること」で準備ができた
起業の準備で、「これをしておいてよかった」というものはありますか?
先にお話ししたとおり、起業を決めた後もしばらくは会社員として働いていたのですが、そのときに実践したのが、「自分のなかで起業後をシミュレーションしながら仕事を進める」という試みです。 会社をクライアントに見立てて、「自分が社員ではなく、外部のコンサルタントとしてこのプロジェクトに関わっているとしたらどうするか?」を考えてみるのです。 そのように視点を変えると、コンサルタントとして仕事をするうえで難しい部分や、それをどうやって解消すればよいかといった点も見えてきます。これはとても良い準備になり、また、自信にもなりました。
年間の売上げが予測不能であることからまずは個人事業主としてスタート
定年退職後から起業までの期間には、どのような準備をされましたか?
私の場合、会社を定年退職してから起業できる状態になるまでに少し時間がありました。失業保険が給付されている間は起業の準備ができないのですが、そのことを知らずにハローワークへ行って失業保険の手続きをしてしまったので。 しかし、その期間があったことで、「本当にやる気があるのか?」「今考えているビジネスモデルで本当にうまくいくのか?」といったことを自問自答して、深く考えることができたので、とてもよかったと思います。 事業内容については、千葉県の「チャレンジ企業支援センター」でもアドバイスをもらい、ビジネスモデルの手直しをしました。 そのほかには、株式会社にするのか個人事業にするかを検討したり、住所や電話番号を使うためのバーチャルオフィスを比較検討したり、事業用の印鑑や銀行口座を作ったりといった準備をこの時期にしています。 株式会社にするかどうかの選択については、その段階では年間売り上げがどのくらいになるのかわからなかったこともあり、まずは個人事業主としてスタートすることにしました。 それと同時に、ビジネスパートナーとして、私のお客さまになってくれる人との仲をとりもってくれる人やツールを探すことも、重要な準備だと考えています。マイベストプロも、そんなビジネスパートナーのひとつです。
支出が少ないコンサルティング事業と潜在ニーズに対しての確信により不安はなかった
起業するにあたり、不安を感じることはありませんでしたか?
失業保険受給期間に考える時間があったことや、やるべきことが自分の中で決まっていたこともあり、大きな不安はありませんでした。 金銭面については、コンサルタント業は初期投資以外の支出がそれほど多くないですし、事業内容についても、「これがダメなら次はこれを試してみよう。それでもダメなら次はこれ」という「持ち駒」をいくつか準備してあるので、それが尽きるまでは大丈夫だと思っています。 自分の顧客である「会議に不満を感じている人」が必ず存在するという点が明確なことも、楽観的でいられる理由かもしれません。会議についての問題を解決したい人は必ずいて、「まだお客さまとして出会っていないだけだ」と考えています。 また、家族が私の挑戦を理解してくれていることや、会社員時代の同僚がSNSで応援の言葉をくれたことは大きな励みになりました。
起業では「うまくいかなくてもへこたれない強い心」が一番大事
起業を考えている人たちにアドバイスをお願いします。
起業するにあたり、事業内容を明確にすることはとても重要です。株式会社なら定款を作りますが、個人事業主の場合でも、具体的な事業内容はきちんと決めておくことをおすすめします。 自分には何ができるのかを客観的に考え、本当にニーズあるのか、顧客は存在するのかを検討しますが、このときに客観的な視点がとても重要になるので、できればビジネスモデルを誰かに聞いてもらうのがよいと思います。 人に話して肯定してもらえば自信になりますし、「ここがちょっと弱いね」などのアドバイスをもらえれば手直しもできます。 現在の仕事に関連した分野で起業する場合は、私が在職中に実践したように「起業後を想定して会社の仕事をしてみる」こともおすすめです。在職中にできることを見つけてチャレンジしておけば、それが起業後の自信になります。 また起業をしてみて、ブランドの重要性も実感しました。会社員時代は「〇〇社の小川さん」でしたが、退職すると「どこの誰だかわからない小川さん」になってしまいます。だからこそ、自分の仕事をブランディングしていくことが大切だと思います。 そして、一番大切なのは、「うまくいかなくてもへこたれない強い心」。日頃からこういったメンタルを育むことを心がけ、起業の備えにしていただきたいと思います。
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