【起業事例】準備期間10年を経て60歳で起業。管理職・経営者を目指す幹部人材に特化した研修講師としてスタート
インタビュー
鈴木 一正 プロフィール
1955年 静岡県静岡市生まれ。県立清水東高校・慶応義塾大学法学部法律学科を卒業。1978年 日本電装株式会社(現株式会社デンソー)に入社。生産管理部(トヨタ生産方式等を学ぶ)、海外勤務(Nippondenso of Los Angeles Inc.)にて生産管理・購買・物流・事業企画を担当する。帰国後、購買部(国際購買)、秘書部(役員秘書)、経営企画部(ビジョン策定・経営計画立案・方針管理実践)等を経て、2000年に通信企画部部長に就任。2007年 メーカーのみならず、サービス・教育業界にもトヨタ的経営の普遍性を実証し、実践するとの志を持ち、学校法人河合塾に職場を移し、経営企画推進室長、グループ業務本部、(システム部門の強化等)、理事、監事を歴任。2015年 「研修ソーシング」を立ち上げ、現在に至る。
75歳まで自分らしく豊かに働くために、45歳から将来設計をスタート
起業を意識したのはいつごろですか?また、きっかけをお聞かせください。
「いつか起業したいな」と、45歳くらいで考えていました。しかし、家庭もありますし、当時は子どもが大学生だったこともあり、経済的なことを考えるとなかなか踏み出せませんでした。
でも、常に「あと30年、どうすれば自分らしくイキイキと活動することができるのか」といったことは頭にありました。そのため、45歳頃から具体的に将来のライフ設計を始め、「健康寿命である75歳までは働こう」ということは決めていました。
また、私が今まで学んできた「トヨタ・デンソーの経営思想は普遍的であり、多業種にも必ず通用する」という思いが根底にありました。思慮に思慮を重ね、決意したのがキャリアアップのための転職で、そのとき私は50歳。この頃から、起業に向けて本格的に動き始めました。
私が起業を意識したきっかけは、一人のアメリカ人の何気ない一言です。大学卒業後、デンソーに入社し、とにかく会社のために昼夜働いていました。30代でアメリカ駐在になったのですが、その当時の日本はとても景気が良く、みんなどこか浮き足だっていました。それぞれの社員が自信に満ちあふれていて、「会社に尽くすことこそ美徳」といった雰囲気がありました。
でも、そんなある日、警備をしているガードマンに言われたんです。「そんなに会社のためにエネルギーを費やして何になるの?能力と気力と知力があるのに日本人はどうして起業しないの?」と。
今まで会社のために働くことに疑問なんてありませんでしたし、意味なんて考えたこともなかったのですが、そのときハッとしました。彼の発言は私に、「1度しかない人生を本当にこのまま会社という狭い世界で終えていいのか」と考えるきっかけを与えてくれたのです。その時の言葉がずっと胸の中にあり、起業へのモチベーションとなりました。
準備期間10年。自分が培ってきた知識を形にして60歳で起業
実際に起業した年齢と、起業するにあたっての準備期間について教えてください。
50歳から準備を始め、本格的に起業したのが60歳の時です。だから準備期間は10年です。10年と聞くと長く感じる人もいるかもしれませんが、私は自分自身の起業において妥協したくありませんでした。
起業準備の中で最も時間をかけたのが本の出版です。デンソーでは27年勤め、河合塾では14年のあいだ経営に携わってきました。経営哲学や人材育成の手法など、約40年にわたる会社人生で培ってきたことを整理しながら誰にでもわかるように伝える、つまり「知識の見える化」に力を注ぎました。
言うのと書くのでは大きなギャップがあり、大変でした。どの業界にも通じるような普遍的な手法に転換するために、暗中模索しながら鋭意努力しました。
自分の得意なことで世の中に貢献したいという思いで人材育成に注力
事業内容はどのようにして決めましたか?
私には、自分の得意なことで世の中に貢献したいという思いがありました。今までのキャリアを通して私自身がやりがいを感じ、強い使命感を持っていたのが人材育成です。
トヨタ・デンソーで体得した経営哲学と河合塾で学んだ教育哲学を融合させることで、私にしかできないリーダー育成ができるのではないかと思いました。デンソーと河合塾は一見共通点がないように見えますが、経営も教育も大切なのはリーダーの育成です。リーダーを育てなければ良い企業にはなりません。リーダーは誰もがすぐになれるわけではなく、まわりが認めないとリーダーにはなれません。そして、リーダーは育てられて初めてリーダーになるわけで、そういった人を育てるための人財が必要です。
私がこれまで得てきた知見を生かし、「強い組織を作るためのヒントをお伝えすることで、社会に貢献したい」と考え、現在の事業内容を決定しました。
惜しみなく知見を伝え日本の社会をより良くしたい
事業における今後の展望をお聞かせください。
現在、中小企業など後継者が育たず悩んでいる会社も多いでしょう。そういう会社のために、私が持つ知識を惜しまず提供し、基幹となる人財を育てていくことに力を注いでいきたいと思っています。
大手企業への幹部研修も、中小企業のトップを育成するのも根本は同じ軸です。経営者や管理者、若手社員など一人ひとりの可能性を信じ、仕事に対する意欲と能力を最大限に引き出すことで強い企業になると考えています。
これからの日本は、おのおのが持つ多様な個性や強みを生かし、それぞれの違いを認めながら組織の力を高めていくことが重要になってきます。その先駆者として活動していきたいと考えています。アメリカで過ごしたからこそ、日本の良さがよくわかります。私に、愛する日本の社会をより良くしたいという気持ちが強くあるのです。
年齢を重ねても生きがいをもってチャレンジすることが大切
現在の心境をお聞かせください。
今、とても楽しいですね。新しいことの連続で刺激があって生きがいにもなっています。でも、自分が成功したとは思ってなくて「もっともっと上を目指したい」、そんな気持ちです。
ずっと以前は、「40代くらいで成功していたいな」といった思いもありましたが、家庭やその時の状況などをかんがみた結果であり、自分が選んだ道なので後悔はしていません。
いま私は64歳です。100歳まで生きるかもしれませんし、もしかしたらそんなに時間は残されていないのかもしれません。先のことは誰にもわかりませんので、そこにとらわれず、「人生は長い」という前提で、自分の興味があること、やってみたいことにどんどんチャレンジしていきたいと思っています。
「小さなことでもやりきること」「こつこつと積み上げること」が成功への道
これから起業を目指す方にアドバイスはありますか?
よく考えてしっかり準備をすることです。今まで積み上げてきたことは絶対に自分を裏切りません。小さなことでも、ひとつひとつきちんとやりきること、そしてそれを積み上げること。これに尽きますね。
たとえ、誰にでもできることだったとしても、それを集積することで「誰にもまねできないもの」になるからです。やりきること、積み上げることで、凡人でも天才になることができると私は思います。
そして、一人ひとりに与えられた役割というものを理解することも重要だと思います。植物に例えると、花に生まれる人、葉っぱに生まれる人、根、茎などさまざまな役割があります。全員が花になる必要はないんです。葉っぱがないと光合成できませんし、根がないと水や栄養分を吸収することができません。それぞれの役割に無駄は一つもないのです。一流の葉っぱや根になればいいということをお伝えしたいですね。
まずは自分の役割を明確にして、自身の強みを生かしながらやりきる、積み上げる。時間を味方にして、自分の凡才が天才に変わるように動いていくことこそ成功の近道になるのではないでしょうか。
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