【起業事例】56歳で起業。Skype(スカイプ)を使った英語のマンツーマンレッスンを展開

インタビュー

56歳で海外事業部のでの経験をもとに英語のマンツーマンレッスンを展開。スカイプを使ったインターネットレッスンで多くの顧客層を獲得した経緯などについてお聞きしました。

山中 昇 プロフィール
1953年 広島県生まれ。1972年 早稲田大学政治経済学部入学。1976年 松下電器グループ会社に入社。営業職に従事。1990年に英国松下電器に出向し、5年間滞在。2008年 55歳で退職し、2009年4月 「英検一級道場」を設立し、インターネットの無料電話サービス「Skype(スカイプ)」を使った英語のマンツーマンレッスンを展開。

海外営業部の経験を英語教室に活かす。大きな利益を追求せず自分のできる範囲での起業が魅力。

英語指導者として独立したのは何歳のときですか?

私が「英検一級道場」をはじめたのは2009年の1月、56歳のときです。スタートしたころは、都内の喫茶店にスペースを借りて拠点にしていました。

同年の3月くらいまでは、指定の場所に生徒さんに通ってもらう通学スタイルでした。しかし、そこに足を運べる人にしかレッスンを提供できない。こちらとしても通勤や場所代にお金がいるし、自宅(当時は埼玉県草加市)から都内まで行くのに時間もかかる。「不便で効率的ではないな」と思いました。

そこで「インターネットを通じてビデオ通話ができるサイトを使うのはどうだろう」とアイデアがひらめきました。パソコンやスマートフォンといった端末を持っていて、インターネットの環境が整っていれば、英語を学びたい人にもれなくレッスンをすることができます。

生徒さんも私も教室に通う必要がないので、限られた時間を有効に使うことができます。
お互いに自宅にいながら授業をすることができます。「これは便利だ」ということで、インターネットの無料電話サービスを使ったマンツーマンレッスンに切り替えました。

低価格・インターネット・マンツーマンが集客のカギ

レッスンをはじめてすぐに生徒さんは集まったのですか?

自宅でレッスンをするようになってからも、しばらくは週末のみのレッスンでした。その後、少しずつ生徒さんが増えてきたので平日もレッスンを実施するようになったところ、そこから生徒さんの数がぐっと増えました。

というのは、主婦層の方や学生さん、ビジネスマンやOLさんなど平日のほうがレッスンに参加しやすい方が多くいらっしゃったからです。週末は何かと予定が入ったりする方でも、平日ならレッスンを受けることができるという方が多かったのです。

生徒さんが増えた理由は何でしょう?

生徒さんが増えた理由としては、主に3つの理由が考えられます。

一つは、インターネットを活用することで低価格でサービスを提供できるという点です。
仕事や家事、育児、学業などで忙しいみなさんにレッスンを提供できるのは、国内のみならず世界中の誰とでもつながることができるインターネットというグローバルなシステムがあるからです。

しかもサービスによってはビデオ通話ができるので、顔と顔を合わせて会話ができる。この便利なコミュニケーションツールと私のビジネスがうまくマッチしたことが大きいとお思います。

ネットのおかげで教室や事務所を借りる必要がなく、賃料やそこに通う経費が発生しません。出費がないため授業料をおさえることができます。

二つ目に、低価格でありながら、マンツーマンできめ細かいサービスを提供できているという点です。

語学学習で要になってくるレッスンですが、授業料が安い、低価格だからといって「それなりの内容…」というわけではありません。

生徒さんによって学びたいポイントや弱点は違います。複数の人が参加するクラス制では個々のレベルに合わせた授業は難しいですが、マンツーマンであれば、ひとりひとりの生徒さんに寄り添った指導ができます。教材ももちろん個別に作成します。オーダーメイドのレッスンを行っているので成果に結びつきやすいのです。結果を求められるビジネスでは、サービスを受ける人の満足度を上げていくことが重要ですので、しっかりと時間をかけて準備しています。

最後に、レッスンの時間・間隔が生徒さんに合わせて設定可能という点です。
レッスン時間や間隔も30分単位で、生徒さんに合わせて設定が可能であること、教室がないため通学時間が不要になり、自宅や出張先などインターネットが使えればどこからでもレッスンを受けることができるのも、忙しい生徒さんのニーズにマッチしているのではないかと思います。

以上のように、ネットの活用で教室が不要となり、低価格の授業料を実現できること、マンツーマンのサービスなのできめ細やかなオーダーメイドのカリキュラム、時間や場所の制約から解放され、通学のストレスがなく自分に合ったペースでレッスンが受けられること、。これらが生徒さんの数を伸ばせた要因だと思います。

起業で英語指導者を選んだのはなぜですか?

大学卒業後、松下電器グループ会社で営業職に長く従事していました。国内営業部から海外営業部に移り、英国松下電器に出向し1990年から5年間イギリスで暮らしました。しかし1995年に脳幹梗塞で倒れてしまいました。病の床で、自分がこれからどう生きていくのか、どう生きていくべきかを考えました。

「松下電器の山中」という肩書きを背負って仕事に邁進(まいしん)してきましたが、それがいつまでも続くわけではありません。

会社を辞めても「自分が何者であるかをきちんと証明できるものを持たなければ」と思い、私にとって身近にあった英語に着目しました。

2カ月のリハビリを経て自らに課したのは、英語力を測る評価軸として知られる英検1級に合格するということ。1998年から27回連続で合格し、現在も記録更新のために勉強をしています。

語学力を伸ばしたい、英検1級に合格したいという生徒さんにレッスンをするにあたって、私が常に試験の情報を持っておくことは大切ですし、実際に受けて合格するなど実績を積んでおかなければ信用してもらえません。

一緒に困難を乗り越えて喜びを分かち合うなど、生徒さんと一体感を持つことは学習の場では大切なことです。
私自身が課題を乗り越える過程で経験する苦労を生徒さんに伝えていくことで共感を得ることができますし、生徒さんが抱える悩みも理解することができます。

英検受験は自分へのタスクとして取り組みましたが、結果として私の礎となり現在の仕事を支えています。

起業にあたり準備したことはありますか?

先ほどもお話ししたように、教室の維持費や事務員さんを雇う経費などが必要ないため、起業にあたって資金を用意したわけではありません。

しかし、自分の商品としての価値は英語力だということを頭に入れて、英検に挑戦する以外にも商業英検A級や通訳ガイド試験、国連英検特A級に合格するなどの準備はしました。自分に自信をつけるべく努力をしていたので起業することに不安はありませんでした。

いったん退職すると、それまで自分を守ってくれた会社という鎧(よろい)をまとうことはできません。それゆえ、世間に出たとき誰にも負けない、どこに行っても恥ずかしくない価値を備えておきたいと思ったんです。

松下時代、私たち従業員が会社から受け取るお給料は「お客さまへのお役立ち料」だと言われました。みなさんが松下の製品を購入してくださるのは相応の価値があるからで、お金を支払っていただくにふさわしい価値を提供していくことが私たちの仕事だということです。

私はこの精神を今でも大事にしていて、私のレッスンが生徒さんにとって価値があるものに仕上げるために全力で仕事に取り組んでいます。

だからこそ、「先生のもとで念願の英検に合格することができた」「先生に教えてもらったおかげで英語力がついた」と言っていただけるのだと思います。

自分が立ち上げる事業に確固たる自信を持たなければ、どこかでつまずいてしまうし、そこから起き上がれなくなってしまうでしょう。

ご自身の事業に対する思いをお聞かせくだい。

私の生徒さんが抱える事情はさまざまです。高齢になった親ごさんや障害を抱えるお子さんの介護やケアをしている人、病気を抱えている人、赤ちゃんを産んで間もないお母さんなど、みなさん教室に通うことが難しい状況ですが英語を学びたいといった志をお持ちです。

私はそういった方々の力になりたいと思っています。たとえば英語を勉強したい人が1000万人いるとします。私が対象にしているのはそれらすべての人ではありません。その中の0.01%の人、つまり1000人に向けて私の英語レッスンを届けることができればいいなと思っています。これまで、延べで500人を超える生徒さんを相手にしてきました。ここ数年は月に160時間を超えるペースでレッスンをしており、出たり入ったりですが、常時50-60人を相手にしています。今のペースで行くと、あと10年くらいで実現できるかもしれませんね(笑)。

生徒さんから「教室はつくらないんですか?ぜひ開設してください」といったお声もいただきますが、教室に通いたい人、また通える人を対象にして事業を拡張するのではく、英語を学ぶ人の一握りでいいので、低価格で質の高い授業をしていきたいと考えています。大手英会話学校と同じことをやるのは私の仕事ではありません。このスタイルが、みなさんに提供できる私の価値だと思っています。

シニア起業の魅力についてお聞かせください。

30代や40代であれば家族を養っていくプレッシャーがあります。また、勤めていた会社の同僚や学生時代の仲間に負けないように成功を収めたいといった野心もあるでしょう。

しかし、そういった気負いがなくなるのがシニア起業だと思います。

大きな利益を追求するのではなく、自分のできる範囲で世の中に貢献していけるのがシニア起業の醍醐味です。

「肩の力を抜いて仕事ができる」。私はそういった心持ちなので毎日が楽しいです。学習指導は、レッスン以外にもテキストを用意するなどやることがたくさんあって大変ですが、不思議と疲れはありません。きっと生徒さんが懸命に学ぶ姿を見ているからで、それが私の励みになっています。

遠方の生徒さんが東京に来るときは連絡をもらい、食事をご一緒したり観光スポットを案内したりして親交を深めています。

こういったお付き合いは、会社勤めではそうそうありません。私個人として、多くの人と良い関係性を築けているので充実した人生だと思います。

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